*

父は忘れる

公開日: : 最終更新日:2014/07/10 感動する話

Pocket

『父は忘れる』

(リヴィングストン・ラーネッド)

 
坊や、きいておくれ。

おまえは小さな手に頬をのせ、
汗ばんだ額に金髪の巻き毛をくっつけて、
安らかに眠っているね。

お父さんは、ひとりで、
こっそりおまえの部屋にやってきた。

今しがたまで、
お父さんは書斎で新聞を読んでいたが、
急に、息苦しい悔恨の念にせまられた。
罪の意識にさいなまれておまえのそばへやってきたのだ。

 

 
お父さんは考えた。

これまでわたしは
おまえにずいぶんつらく当たっていたのだ。

 

おまえが学校へ行く支度をしている最中に、
タオルで顔をちょっとなでただけだといって、叱った。

靴をみがかないからといって、叱りつけた。

また、持ちものを床のうえに
放り投げたといっては、どなりつけた。

今朝も食事中に小言をいった。
食物をこぼすとか、丸のみにするとか、
テーブルにひじをつくとか、
パンにバターをつけすぎるとかいって叱りつけた。

 

それから、おまえは遊びに出かけるし、
お父さんは駅へ行くので、一緒に家を出たが、
別れるとき、おまえは振り返って手をふりながら、
「お父さん、行っていらっしゃい!」といった。
すると、お父さんは、顔をしかめて、
「胸を張りなさい!」といった。

 

同じようなことが
また夕方にくりかえされた。

 

わたしが帰ってくると、
おまえは地面にひざをついて、
ビー玉で遊んでいた。

ストッキングは
ひざのところが穴だらけになっていた。
お父さんはおまえを家へ追いかえし、
友だちの前で恥をかかせた。

「靴下は高いのだ。
おまえが自分で金をもうけて買うんだったら、
もっとたいせつにするはずだ!」

これが、お父さんの口から出たことばだから、
われながら情けない!

 

それから夜になって
お父さんが書斎で新聞を読んでいるとき、
おまえは、悲しげな目つきをして、
おずおずと部屋にはいってきたね。

うるさそうにわたしが目をあげると、
おまえは、入口のところで、ためらった。

 

「何の用だ」とわたしがどなると、
おまえは何もいわずに、
さっとわたしのそばにかけよってきた。

 

両の手をわたしの首に巻きつけて、
わたしにキスした。

 

おまえの小さな両腕には、
神さまがうえつけてくださった愛情がこもっていた。

 

どんなにないがしろにされても、
決して枯れることのない愛情だ。

 

やがて、
おまえは、ばたばたと足音をたてて、
二階の部屋へ行ってしまった。

 

ところが、坊や、
そのすぐあとで、
お父さんは突然何ともいえない不安におそわれ、
手にしていた新聞を思わず取り落としたのだ。

何という習慣に、
お父さんは、取りつかれていたのだろう!

 

叱ってばかりいる習慣…

まだほんの子供にすぎないおまえに、

お父さんは何ということをしてきたのだろう!

 

決しておまえを愛していないわけではない。

 

お父さんは、
まだ年端もゆかないおまえに、
むりなことを期待しすぎていたのだ。

おまえをおとなと同列に考えていたのだ。

 

おまえのなかには、
善良な、立派な、真実なものがいっぱいある。

 

おまえのやさしい心根は、
ちょうど山の向こうからひろがってくる
あけぼのを見るようだ。

 

おまえがこのお父さんにとびつき、
お休みのキスをしたとき、
そのことが、お父さんにははっきりわかった。

ほかのことは問題ではない。

 

お父さんは、おまえに詫びたくて、
こうしてひざまずいているのだ。

 

お父さんとしては、
これが、おまえに対するせめてものつぐないだ。

 

昼間こういうことを話しても、
おまえにはわかるまい。

だが、あすからは、
きっと、よいお父さんになってみせる。

 

おまえと仲よしになって、
いっしょに喜んだり悲しんだりしよう。

小言をいいたくなったら舌をかもう。
そして、おまえがまだ子供だということを
常に忘れないようにしよう。

 

お父さんはおまえを
一人前の人間とみなしていたようだ。

こうして、あどけない寝顔を見ていると、
やはりおまえはまだ赤ちゃんだ。

きのうも、お母さんに抱っこされて、
肩にもたれかかっていたではないか。

お父さんの注文が多すぎたのだ。

q01341

AD googleアドセンス

関連記事

ばあちゃんと自転車

俺、老人苦手。 「おばあちゃんこ」とか「おじいちゃんこ」とかってスゴイ。 老人慣れしてるヤツ

記事を読む

IBMの正式な職員

アルゼンチンの首都ブエノスアイレスにあるIBMのオフィスに、野良猫が住み着いた。IBMの職員は野良猫

記事を読む

やしきたかじんさんが愛されてきた理由

1999年10月5日。大阪・フェスティバルホール。50歳の誕生日を迎えた歌手・やしきたかじんさんは1

記事を読む

花嫁の電話

由香ちゃんが近所に引っ越してきたのは、まだ小学校三年生のときでした。 ときどきわが家に電話を借りに

記事を読む

初めてのディズニー体験

25年間、ずっとずっとTDLに行きたいと思っていたのに、中々いけなかった。 親は遊園地なんて連

記事を読む

**大切な人に贈りたい24の物語**より 星野監督の話

星野監督は多くの選手から慕われていますが その理由がわかる話を聞きましたので紹介します

記事を読む

爺ちゃん「俺だ!俺だ!それ俺だ!俺!俺の事だ!」

ある日爺ちゃんとテレビを見ながら飯を食っていると 世界不思議発見だか何だかでラバウルが紹介されたん

記事を読む

伝える手段

電車で障害のある方が呻き声を出した。 それを見ていた男子高生が「きめぇー」って でかい声で笑

記事を読む

無償の愛でしょ?お金なんかいらない

おじいちゃんは老いから 手足が不自由でトイレも1人では厳しい。 だから、いつも

記事を読む

親父の手

昔、子供の頃 よく親父と手を繋いで歩いた・・・ 親と手を繋いでみてください・・・

記事を読む

AD googleアドセンス

AD googleアドセンス

3年越しの結婚式に流れたビデオレターに感動

余命幾ばくも無い母のために挙げようとした結婚式にまつわるお話です。

女性が結婚式を特に大切に思い、こだわる理由とは?

兄が「なんで女って結婚式にこだわるんだろう」って言ったとき 奥さ

ウェディングドレスが白色の理由は?

結婚式に参列していた小さな男の子が母親に訪ねた 男の子:「ママ。あの

結婚式の入場曲がドラクエだったら?

近くにいる女子社員2人の会話(゚Д゚)→   A

ほのぼのするオカメインコの話

前にここでオカメインコがオカアサンオハヨって言葉を覚えたって 書いた

→もっと見る


PAGE TOP ↑