*

約束の結婚式

公開日: : 最終更新日:2014/08/27 感動する話

Pocket

由香ちゃんが近所に引っ越してきたのは、まだ小学校三年生のときでした。

ときどきわが家に電話を借りに来るのですが、いつも両親ではなく由香ちゃんが来るので、おかしいなと思っていたのですが、しばらくしてその訳がわかりました。

由香ちゃんのご両親は、耳が聞こえない聴覚障がいがある方で、お母様は言葉を発することが出来ません。

親御さんが書いたメモを見ながら、一生懸命に用件を伝える由香ちゃんの姿を見ていると、なんだか胸が熱くなる思いでした。

今なら携帯電話のメールがありますが、その時代を生きた聴覚障がいを持つ皆さんは、さぞ大変だったろうと思います。

由香ちゃんの親孝行ぶりに感動して、我が家の電話にファックス機能をつけたのは、それから間もなくのことでした。

しかし、当初は明るい笑顔の、とてもかわいい少女だったのに、ご両親のことで、近所の子供達にいじめられ、次第に黙りっ子になっていきました。

そんな由香ちゃんも中学生になる頃、父親の仕事の都合で引っ越していきました。

それから十年余りの歳月が流れ、由香ちゃんが由香さんになり、めでたく結婚することになりました。

その由香さんが、

「おじさんとの約束を果たすことができました。ありがとうございます」

と頭を下げながら、わざわざ、招待状を届けに来てくれました。

私は覚えていなかったのですが、

「由香ちゃんは、きっといいお嫁さんになれるよ。だから負けずに頑張ってネ」

と、小学生の由香ちゃんを励ましたことがあったらしいのです。

そのとき「ユビキリゲンマン」をしたのでどうしても結婚式に出て欲しいというのです。

「電話でもよかったのに」

と私が言うと、

「電話では迷惑ばかりかけましたから」

と由香さんが微笑みました。

その披露宴でのことです。

新郎の父親の謝辞を、花嫁の由香さんが手話で通訳するという、温かな趣向が凝らされました。

その挨拶と手話は、ゆっくりゆっくり、お互いの呼吸を合わせながら、心をひとつにして進みました。

「花嫁由香さんのご両親は耳が聞こえません。

お母様は言葉も話せませんが、こんなにすばらしい花嫁さんを育てられました。

障がいをお持ちのご両親が、由香さんを産み育てられることは、並大抵の苦労ではなかったろうと深い感銘を覚えます。

嫁にいただく親として深く感謝しています。

由香さんのご両親は“私達がこんな身体であることが申し訳なくてすみません”と申されますが、私は若い二人の親として、今ここに同じ立場に立たせていただくことを、最高の誇りに思います」

新郎の父親の挨拶は、深く心に沁みる、感動と感激に満ちたものでした。

その挨拶を、涙も拭かずに手話を続けた由香さんの姿こそ、ご両親への最高の親孝行だったのではないでしょうか。

花嫁の両親に届けとばかりに鳴り響く、大きな大きな拍手の波が、いつまでも披露宴会場に打ち寄せました。

その翌日。

新婚旅行先の由香さんから電話が入りました。

「他人様の前で絶対に涙を見せないことが、我が家の約束ごとでした。

ですから、両親の涙を見たのは初めてでした」

という由香さんの言葉を聞いて、再び胸がキュンと熱くなりました。
              

出典元: (「NTT西日本」コミュニケーション大賞受賞作品)

q01400

AD googleアドセンス

関連記事

【神様からの手紙】

例え動物であっても、ペットは今や家族同然の存在と感じる人も多い時代。 しかし、人間よりも寿命の

記事を読む

今更聞けない「一杯のかけそば」のお話

この物語は、今から35年ほど前の12月31日、 札幌の街にあるそば屋「北海亭」での出来事から始まる

記事を読む

手紙だとずっと大切に保管できるのに

ある日、父が携帯を片手にノートに何か書いていた。 何をしているのかと聞いたら「お母さんから貰っ

記事を読む

「しあわせだね」って口にするだけで幸せになれるよ。

電車内。 推定3歳くらいの女の子が 「けしき、きれいだね。しあわせだね」 「お

記事を読む

ハッピーバースデートゥーユー

娘と妻と三人で福岡に帰る日。 小学校4年生の娘は心臓病を患っており、ベッドに寝たまま搭乗するこ

記事を読む

募金箱の前にて幼稚園位の男の子と母親の会話。

母「貯めてたのに本当にいいの?」 子「どうぶつの森我慢する。これで地震の人の家建てる。」

記事を読む

リッツカールトンの接客

満足を超えた感動を提供するホテル「ザ・リッツ・カールトン」! 様々な著書でも有名な、このホテル接客

記事を読む

僕は誇らしかった

僕が幼稚園の頃の事だ。 まだ東北新幹線も上越新幹線も建設中で、一部区間を試験車両だけが走ってた時代

記事を読む

もう10年も前の話

もう10年も前の話。 妻が他界して1年がたった頃、 当時8歳の娘と3歳の息子がいた。

記事を読む

ばあちゃんと自転車

俺、老人苦手。 「おばあちゃんこ」とか「おじいちゃんこ」とかってスゴイ。 老人慣れしてるヤツ

記事を読む

AD googleアドセンス

AD googleアドセンス

大雨の日の約束

僕は格闘技をやってます。僕には彼女がいます。彼女は僕の身を心配して、ボ

結婚を約束した彼女が痴呆になったら。。。

彼女が痴呆になりました、前から物忘れが激しくて、ある日夜中に突然昼ご飯

馬鹿な彼女・・・でも本当にバカだったのは俺だった。。。

俺には可愛い彼女がいた 性格は素直でスタイルも良かったが周囲からは

黒人差別的な一言に痛恨の一撃をお見舞いする。

ちょっとスチュワーデスさん!席を変えてちょうだい」  

写真代わりに、母が書いた自分の絵。

うちは貧乏な母子家庭で、俺が生まれた時はカメラなんて無かった だから

→もっと見る


PAGE TOP ↑