*

花嫁の電話

公開日: : 最終更新日:2015/12/06 感動する話

Pocket

由香ちゃんが近所に引っ越してきたのは、まだ小学校三年生のときでした。
ときどきわが家に電話を借りに来るのですが、いつも両親ではなく由香ちゃんが来るので、おかしいなと思っていたのですが、しばらくしてその訳がわかりました。
由香ちゃんのご両親は、耳が聞こえない聴覚障がいがある方で、お母様は言葉を発することが出来ません。
親御さんが書いたメモを見ながら、一生懸命に用件を伝える由香ちゃんの姿を見ていると、なんだか胸が熱くなる思いでした。
今なら携帯電話のメールがありますが、その時代を生きた聴覚障がいを持つ皆さんは、さぞ大変だったろうと思います。
由香ちゃんの親孝行ぶりに感動して、我が家の電話にファックス機能をつけたのは、それから間もなくのことでした。
しかし、当初は明るい笑顔の、とてもかわいい少女だったのに、ご両親のことで、近所の子供達にいじめられ、次第に黙りっ子になっていきました。

そんな由香ちゃんも中学生になる頃、父親の仕事の都合で引っ越していきました。

それから十年余りの歳月が流れ、由香ちゃんが由香さんになり、めでたく結婚することになりました。
その由香さんが、
「おじさんとの約束を果たすことができました。ありがとうございます」
と頭を下げながら、わざわざ、招待状を届けに来てくれました。

私は覚えていなかったのですが、
「由香ちゃんは、きっといいお嫁さんになれるよ。だから負けずに頑張ってネ」
と、小学生の由香ちゃんを励ましたことがあったらしいのです。
そのとき「ユビキリゲンマン」をしたのでどうしても結婚式に出て欲しいというのです。

「電話でもよかったのに」
と私が言うと、
「電話では迷惑ばかりかけましたから」
と由香さんが微笑みました。

その披露宴でのことです。
新郎の父親の謝辞を、花嫁の由香さんが手話で通訳するという、温かな趣向が凝らされました。
その挨拶と手話は、ゆっくりゆっくり、お互いの呼吸を合わせながら、心をひとつにして進みました。

「花嫁由香さんのご両親は耳が聞こえません。
お母様は言葉も話せませんが、こんなにすばらしい花嫁さんを育てられました。
障がいをお持ちのご両親が、由香さんを産み育てられることは、並大抵の苦労ではなかったろうと深い感銘を覚えます。
嫁にいただく親として深く感謝しています。
由香さんのご両親は“私達がこんな身体であることが申し訳なくてすみません”と申されますが、私は若い二人の親として、今ここに同じ立場に立たせていただくことを、最高の誇りに思います」

新郎の父親の挨拶は、深く心に沁みる、感動と感激に満ちたものでした。

その挨拶を、涙も拭かずに手話を続けた由香さんの姿こそ、ご両親への最高の親孝行だったのではないでしょうか。
花嫁の両親に届けとばかりに鳴り響く、大きな大きな拍手の波が、いつまでも披露宴会場に打ち寄せました。

その翌日。
新婚旅行先の由香さんから電話が入りました。

「他人様の前で絶対に涙を見せないことが、我が家の約束ごとでした。
ですから、両親の涙を見たのは初めてでした」

という由香さんの言葉を聞いて、再び胸がキュンと熱くなりました。
              

(「NTT西日本」コミュニケーション大賞受賞作品)

z00747

AD googleアドセンス

関連記事

永遠に残るもの

テディ・スタラードは、確かに、劣等性と呼ばれるのにふさわしい子どもだった。 学校に興味がない。無気

記事を読む

自閉症の弟に対する他人の暴言に返した6歳兄の言葉が・・・

わが家は6歳と4歳の男の子ふたり。 弟は自閉症で、週に数回通所施設を利用している。 今日

記事を読む

サーカスの入場券

私がまだ十代のころのことです。 サーカスの入場券を買うために、父と私は長い列に並んで順番を

記事を読む

理解者  きっとこの先もずっと、忘れられない言葉

この11年間も、きっとこの先もずっと、 忘れられない言葉がある。忘れたくない 気持ちがある。

記事を読む

母から娘への手紙

私のかわいい娘へ。 私が老いていることに気付いたときには、落ち着いて受けとめてね。 何より、私が

記事を読む

no image

【日本語字幕】世界中が涙したタイの感動CM

病気の母のため、薬を万引きしようとした少年に救いの手をのべた食堂のおじさん。その30年後、おじさんは

記事を読む

日本女性の「3歩下がってついていく」本当の意味

https://youtu.be/21sLqIZ4fMA 昔から、「日本の女性は、男性から3歩下が

記事を読む

二人目のお母さん ~今日からこの人がお前のお母さんだ~

俺が六歳の頃に親父が再婚して義母がやってきた。 ある日、親父が「今日からこの人がお前のお母さんだ」

記事を読む

父は忘れる

『父は忘れる』 (リヴィングストン・ラーネッド)   坊や、きいておくれ。 おま

記事を読む

こんな日常の出来事が

お友達家族と、 森の中のアスレチック広場に遊びに行きました。 息子とお友達、お父さん方、お母

記事を読む

AD googleアドセンス

AD googleアドセンス

お母さんのハンバーグ弁当の味

俺の母さんは、生まれつき両腕が不自由だった。 なので料理は基本的に父

「すぐツライと言うのは、ほんとはツラくないんだよ」その言葉忘れない。

大好きだったじぃちゃんが亡くなりました。 私は、小さい時からよく

【騙された花嫁】しかしその真実とは?

本当の親ではないパパと、騙されたその娘の結婚式。 騙された花嫁と

【実話】「他に男できたから別れよ!」…彼女に突如別れを告げられた俺に一本の電話が…(感動する話)【漫画動画】

「彼氏に心配かけたくなくて迷惑かけたくない」という気持ち と

嫌いな母親の顔の傷の秘密。もっとキレイなお母さんが良かったのに。

大嫌いな母親には大きな傷が。 それが母親を嫌いな原因。なんでそん

→もっと見る


PAGE TOP ↑